「偉大なる通俗」-あの深田久弥『日本百名山』(新潮文庫)では、富士山をこう評しています。どんな山にも個性的な魅力があるものだが、この山はただ単純で大きいからだということです。そして、「小細工を弄(ろう)しない大きな単純である。それは万人向きである。何人をも拒否しない、しかし又何人もその真諦(しんたい)をつかみあぐんでいる」とも。富士を撮りだして約20年。その私も未だに納得のいく作品をモノにすることができないでいます。
この山との出会いは遥か昔の学生時代、山岳部の正月合宿で南アルプス・赤石岳から見たときです。月光を浴びて雲海に凛と浮かぶ姿が衝撃的で、神々しくさえありました。しかし、山に重いカメラは持っていくことは御法度。しばし写真を諦めていましたが、ひところの富士山写真ブームなどに刺激されて撮影を本格化、今、会社勤務のもとで休日カメラマンを続けています。
技術の進歩によって撮影機材もデジタル化が定着、昔からのフィルムカメラはともすると忘れ去られようとしています。また撮影ポイントも、時の経過とともに、前面に潅木が成長、視界を遮るようになっています。しかし、何度通っても同じ富士に出くわすことは皆無です。つねにどこかが違う、これまでにない何かを語りかけてくれます。-大きく、ときに神秘的な、孤高の富士が永久に存在しています。
出展数 フィルムカラー 約45点
(c)岩田敏郎